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水戸地方裁判所 平成5年(わ)497号 判決

本店所在地

茨城県稲敷郡河内村長竿字道前一九三八番地

貴清工業株式会社

(右代表者代表取締役 石山貴基)

本籍

茨城県稲敷郡河内村大字長竿一五七番地の二

住居

同村大字生板五四五八番地

会社役員

石山貴基

昭和一九年五月二二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官関澤邦雄及び弁護人野村孝之各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人貴清工業株式会社を罰金三〇〇〇万円に、被告人石山貴基を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人石山貴基に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人貴清工業株式会社(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、漁業用冷凍設備の製造、建設用機械及び車両の部品製造等などを目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人石山貴基は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人石山は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上を除外し、架空外注費や架空賞与を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億六〇四四万七一二二円あったのにもかかわらず、平成二年五月三一日、茨城県龍ヶ崎市川原代町一一八二番地の五所在の所轄竜ヶ崎税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二五九五万二七七一円でこれに対する法人税額が一〇三三万〇九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額六四一二万八九〇〇円と右申告額との差額五三七九万八〇〇〇円を免れ

第二  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三六三一万〇〇一二円あったのにかかわらず、平成三年五月三一日、前記竜ヶ崎税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六九八三万九二三七円でこれに対する法人税額が二六五七万四二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額八九〇〇万〇八〇〇円と右申告税額との差額六二四二万六六〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人石山貴基の当公判廷における供述

一  被告人石山貴基の検察官に対する供述調書(八通)

一  渡辺浩の検察官に対する供述調書(三通)

一  渡辺正子、中村一郎、石附保、増尾邦彦、、福島酉蔵及び平川榮一の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、原材料仕入高調査書、賞与調査書、外注加工費調査書、減価償却超過額調査書、減価償却超過額の当期認容額調査書、新規土地等に係る負債の利子の損金不算入調査書、欠損金又は災害損失金等の当期控除額調査書、事業税認定損調査書、土地所有状況調査書及び土地取引調査書

一  大蔵事務官作成の査察官報告書

一  竜ヶ崎税務署長作成の回答書

一  登記官作成の商業登記簿謄本

(法令の適用)

被告会社の判示各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当するので、情状によりそれぞれ同法一五九条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金三〇〇〇万円に処し、被告人石山の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人の懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、個人企業を営む被告人石山が平成二年三月期ころより被告会社の売上が急激に伸びたことから、簿外資金を蓄えようと考え、売上の除外、架空外注費や架空賞与を計上するなどの方法により所得を過少に申告し、二年間にわたり合計一億一六二二万円余りの法人税をほ脱した事案であるが、ほ脱税額は高額であり、ほ脱率も平成二年三月期が約八〇パーセント、平成三年三月期が約七〇パーセントと高率である上、その手口も巧妙であり、取引先と相通じて架空の請求書領収書などを準備する等計画的で悪質である。また犯行の動機も、要するに将来に備えて簿外資金を蓄えようとしたもので、特段酌量すべき余地がない。さらに本件のような所得を偽り不正に税を免れる行為は、国家財政の基盤である税収入の確保を妨げる反社会的な犯罪であるばかりでなく、誠実に納税している大多数の納税者に対して税負担の不公平感を抱かせるとともに、国民一般の納税意欲を減退させるものであって、その社会的影響も軽視することができない。以上のような諸事情にかんがみると、被告人らの刑責は重いといわざるを得ない。

しかしながら、他方被告人石山は、本件発覚後はその非を認めて国税当局及び検察官に対し事実関係を素直に供述するとともに、本件ほ脱額に関し、修正申告をなし、本税、加算税、延滞税を納付していること、被告人石山には交通事犯等による罰金刑以外前科がなく、本件につき反省悔悟の情を示し、今後は二度と脱税しない旨誓っていること等被告人らに有利ないし酌むべき事情も認められるので、これらの事情を斟酌して、被告会社及び被告人石山に対し、それぞれ主文掲記の刑に処し、なお被告人石山については刑の執行を猶予するのが相当と思料し、主文のとおりの量刑をした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 山﨑勉)

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